人文研究見聞録:安倍晴明とは?(まとめ)

平安時代に活躍したとされる陰陽師・安倍晴明ですが、知名度はあれど その実態は謎に包まれているとされています。

そこで安倍晴明について、史実と伝説の両面から その正体に迫って見たいと思います。



安倍晴明の史実上の人物像

人文研究見聞録:安倍晴明とは?(まとめ)

史実上の概要


名前


・安倍晴明:ただし、読み方は確定しておらず「せいめい、はるあき、はるあきら」などと読まれる

出自の諸説


・大膳大夫・安倍益材(あべのますき)の子とする説:『安倍氏系図』『尊卑分脈』『諸家知譜拙記』による
 → 右大臣・阿倍御主人(あべのみうし)の子孫とも
・淡路守・安倍春材(あべのはるき)の子とする説:『百家系図稿』『古代氏族系譜集成』による
・阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)の子孫とする説:『安倍仲丸転生記』『神道講釈安倍晴明』など
・阿倍比羅夫(あべのひらふ)の子孫とする説:個人研究によるもの、俗説
・難波氏(阿倍御主人とは別系統の阿倍氏)の末裔とする説

基本的には、第8代孝元天皇の皇子・大彦命の後裔の安倍氏(阿倍氏)の出自であると考えられている

生誕地の諸説


・大阪説(大阪府大阪市阿倍野区):『今昔物語』『泉州信田白狐伝』による(安倍晴明神社)
・奈良説(奈良県桜井市安倍山):安倍文殊院の伝承などによる(安倍文殊院、御門神社)
・茨城説(茨城県筑西市猫島):『ほき抄』『晴明伝記』による(宮山ふるさとふれあい公園)
・讃岐説(香川県高松市香南町):『讃岐国大日記』『讃陽簪筆録』『西讃府志』による(冠纓神社)


史実上の経歴(主な説によるもの)


・921年:摂津国阿倍野(現・大阪市阿倍野区)で誕生
 → 陰陽道の達人・賀茂忠行に弟子入りし、陰陽道と天文道を学んだ
 → 若い頃の記録は無く、主に伝説として語られている
・27歳頃:大舎人(おおとねり)という下級官人になる
・40歳頃:天文得業生(天文道を学ぶ学生の職)となる
 → 村上天皇から占いを命ぜられていたとも(出世は遅れていたが、占いの才能は既に貴族社会で認められていた)
・50歳頃:天文博士(天文道を担当する教官)に任命される
・57歳頃:時の陰陽頭(陰陽寮の長官)賀茂保憲が逝去する
 → 晴明は陰陽師として歴史の表舞台に頭角を現し始める
・59歳:皇太子師貞親王(後の花山天皇)の命で那智山の天狗を封ずる儀式を行う
 → この頃から花山天皇の信頼を受けるようになる(晴明が行った儀式などが記録に残されるようなる)
 → 花山天皇の退位後、一条天皇や関白・藤原道長の信頼を集めるようになる
・60歳頃:朝廷や貴族などの下で活躍し、陰陽師としての名声を極める
・70歳以降:主計権助、大膳大夫、左京権大夫、穀倉院別当、播磨守などを歴任する
 → 993年2月、一条天皇の急病の際、禊を奉仕して病を治癒し、正五位上の位階を授かる(「小右記」より)
 → 1004年7月、深刻な干ばつのため、勅命により雨乞いの五龍祭を行って大雨を降らせた(「御堂関白記」より)
・85歳頃:1005年に逝去する(死因は不明)

なお、晴明は後に陰陽寮を統括する<b>土御門家(つちみかどけ)</b>の礎を一代で築いたとされます。


安倍晴明の伝説上の人物像

人文研究見聞録:安倍晴明とは?(まとめ)

伝説上の概要


名前


・童子丸(安倍童子):晴明の幼名
・龍宮童子:龍宮城から帰還した後、後涼殿の怪異を治めた評判によって称された名前
・安倍晴明:朝廷に仕えるようになった後、改名したとされる

出自


・父・安倍保名(稀名):阿倍仲麻呂の子孫
・母・葛の葉:保名に救われた白狐


伝説上の経歴(『泉州信田白狐伝』によるもの)


・阿倍仲麻呂の子孫・安倍保名(稀名)と白狐・葛の葉の間に生まれる
 → 父・保名は賀茂保憲のもとで陰陽道の修行をしたとされる
・4歳頃:地面の虫を食べてしまう悪癖が出てくる
・10歳頃:住吉祭の折、子供に虐められていた亀を助けて龍宮城に行く
 → 「龍仙の丸(鳥語が理解できる玉)」と「四寸四方の箱(齢を封じ込めた箱)」を授かる
 → 龍宮城で一夜過ごすと、地上は9年の時が経っていたとされる
・都で異変が起き、内裏(皇居)が焼け落ちた(930年の「清涼殿落雷事件」と思われる)
 → その後、後涼殿から震動が生じ、鎮まらなくなっていた
 → 当時、宮中で重用されていた播磨の僧・蘆屋道満がこれに対処しようとしていた
 → 安倍童子は陰陽師である父の威厳を守るために蘆屋道満に対決を挑むことを決めた
 → 安倍童子は「龍仙の丸」を以って震源を突き止め、これを止めたことから「龍宮童子」として評判を集めた
・蘆屋道満に目を付けられた安倍童子は、宮中で対決することとなった
 → 安倍童子は陰陽道の術で蘆屋道満を出し抜き、その勝負で勝利をおさめた
・その後、朝廷に仕え、安倍保名の長子の安倍晴明と改名した
・漢土(中国)に旅立ち、雍州の城刑山にいる白道仙人のもとで天文陰陽を学んだ
 → そこで「四寸四方の箱(齢を封じ込めた箱)」を開け、陰陽道の奥義を知る代わりに9年も歳をとった
 → その後、壮年になって帰朝した
・帰朝した後、蘆屋道満によって暗殺される
 → 白道仙人は「泰山府君の法(たいざんふくんのほう)」を以って晴明を蘇生させた
 → 道満も誅殺されたが、道満の師・法道仙人によって蘇生された
 → 2人の師は談合し、晴明・道満ともどもに御所を守らせることで決着した
・以後、史実に繋がる

伝説の内容についてはこちらの記事も参照:【安倍晴明の伝説(泉州信田白狐伝)】【安倍晴明の伝説(晴明神社)】


安倍晴明の伝説

人文研究見聞録:安倍晴明とは?(まとめ)

安倍晴明の伝説物語


安倍晴明の出自を語った伝説は以下の通りです(当サイトでまとめたもののみ)。


その他の伝説・伝承


安倍晴明にまつわる伝説のリストです(順不同、随時更新予定)。

・晴明は白狐(葛の葉)の子である(「葛葉伝説」など)
・晴明は幼少の頃、賀茂忠行に陰陽道を学んでいた(『今昔物語』など)
・晴明は幼少の頃から鬼が見えたため、牛車の前を百鬼夜行が通った時に危機回避できた(『今昔物語』など)
・晴明は幼少の頃に亀(もしくは蛇)を助けて龍宮城に招かれ、宝物を得た(複数のバリエーションがある)
・晴明は幼少の頃、播磨の僧・蘆屋道満に対決を挑まれて、それに見事に勝利した(複数のバリエーションがある)
・晴明は雍州の城刑山にいる白道仙人のもとで天文陰陽を学んだ(『泉州信田白狐伝』)
・晴明は蘆屋道満に呪殺されるが、師である白道仙人に「泰山府君の法」で蘇生された(『泉州信田白狐伝』)
・晴明は若い頃、安倍文殊院で修行した(「安倍文殊院」)
・晴明は安倍文殊院の建つ山の上から天文観測をした(「安倍文殊院」)
・晴明が尾張国に住んでいた頃、マムシ害に悩む住人を陰陽道の術で救った(「名古屋晴明神社」)
・晴明は讃岐の冠纓神社で神主をしていた(「冠纓神社」)
・晴明は花山天皇の頭痛の原因を占いで突き止め、その頭痛を解消させた(『古事談』)
・晴明は十二神将を式神としてを使役した(『今昔物語』)
・晴明の式神を妻が怖がるため、一条戻橋の下に隠しておいて必要に応じて呼び出した(『今昔物語』)
・晴明の式神は一条戻橋の下で橋占をしたとされる(「晴明神社」)
・晴明は死者を蘇らせることが出来た(『今昔物語集』)
・晴明は人の感情を操ることが出来た(『北条九代記』)
・晴明はどんな呪詛も跳返した(『宇治拾遺物語』)
・晴明は天文を見て、花山天皇の出家を察知し、式神(十二天将)を使って朝廷に急報しようとした(『大鏡』)
・晴明は播磨国から来た智徳法師に術比べを挑まれたが、それを容易く懲らしめた(『今昔物語』)
・晴明は公卿達に陰陽道の技でカエルを殺すようせがまれ、術を用いて手を触れずにカエルを潰した(『今昔物語』)
・晴明の家では式神に家事を任せており、人もいないのに勝手に門が開閉していた(『今昔物語』)
・晴明は烏に糞をかけられた蔵人少将を見て、烏の正体が式神であることを見破りその呪いを解いた(『宇治拾遺物語』)
・晴明は在原業平の家に結界を張って、火災から守った(『無名抄』)
・藤原道長の命を眼力で救った(『古今著聞集』)
・藤原道長に呪いにかけられたことを愛犬が察知し、後に晴明が占いで犯人を蘆屋道満と突き止めて、それを捕えた(『宇治拾遺物語』)
・藤原道長の物忌みの際、晴明は献上された早瓜に呪が掛けられているのを見抜き、道長を救った
・晴明は熊野の那智の滝で千日の行を行ったとされ、前世は大峰の行人だったとされる(『古事談』)
・花山法王が那智に籠もった際、天狗が様々な妨害をしたため、晴明に命じてこれらを封じた(『源平盛衰記』)
・「熊野の七木」は、花山天皇の命で晴明が北斗七星を勧請してできたものである(『熊野略記』など)
・晴明は二体の式神を使って那智の魔物を岩屋に狩り籠めた(『熊野略記』など)
・熊野の皆地の住人がヒル害で悩んでいた時、晴明が山伏の格好で現れてヒルを大石に封じて住人を救った
・晴明は三井寺の名僧・智興を「泰山府君の法」で延命させた(『宇治拾遺物語』)
・貴船神社に祈願し鬼となった橋姫の腕を渡辺綱が切り落とし、晴明が封印した(『平家物語』)
・平安中期、都で傍若無人な振る舞いをする者が現れた際、晴明は犯人を大江山の酒呑童子と見抜き、朝廷に知らせた


安倍晴明にまつわる資料


人文研究見聞録:安倍晴明とは?(まとめ)

安倍晴明にまつわる資料のリストです(随時更新予定)。

文献


平安時代


・「簠簋内伝金烏玉兎集(ほきないでんきんうぎょくとしゅう)」:平安時代成立?
 → 安倍晴明が編纂したと伝承される占いの専門書
  ⇒ 実際は晴明死後に作られたとされる
・「簠簋抄(ほきしょう)」:不明
 → 「ほき内伝金烏玉兎集」を読みやすくしたもの
・「権記(ごんき)」:平安中期
 → 平安時代中期に活躍した藤原行成の記した日記
・「大鏡(おおかがみ)」:平安時代後期成立
 → 文徳天皇から後一条天皇まで 14代 176年の歴史を列伝体で物語風に叙述し評論している
・「今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)」:平安時代後期成立(1110~1124年頃)
 → 平安時代後期の日本最大の説話集
・「日本紀略(にほんきりゃく)」:平安後期成立
 → 神代から後一条天皇(1036年)までの歴史を記す歴史書

鎌倉時代


・「平家物語(へいけものがたり)」:鎌倉初期成立?
 → 源平争乱を描く軍記物語
・「古事談(こじだん)」:鎌倉初期成立(1212~1215年頃)
 → 鎌倉時代初期の説話集
・「宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)」:鎌倉初期成立(1213~1219年頃)
 → 鎌倉時代前期の説話集
・「十訓抄(じっきんしょう、じっくんしょう)」:鎌倉中期成立(1252年)
 → 十項に分けて、中国説話を含む280あまりの教訓的な説話を収録したもの
・「古今著聞集(ここんちょもんじゅう)」:鎌倉中期成立(1254年)
 → 鎌倉時代中期の説話集
・「源平盛衰記(げんぺいじょうすいき)」:鎌倉後期成立?
 → 鎌倉時代中期から後期の軍記物語
・「北条九代記(ほうじょうくだいき)」:鎌倉後期成立(1331年頃)
 → 鎌倉時代末期の歴史書

室町時代


・「大江山絵詞(おおえやまことば)」:室町時代成立
 → 大江山の鬼退治伝説
・「體源抄(たいげんしょう)」:室町時代成立(1512年)
 → 室町時代の雅楽書

江戸時代


・「晴明伝記(せいめいでんき)」:江戸時代初期(1596~1615年頃)
 → 茨城県に伝わる晴明伝説の説話集
・「説教節(せっきょうぶし)」:中世~近世(1658~1692年頃)
 → 中世から近世初期に行われた、宗教性と娯楽性を併せ持つ語り物
・「讃岐国大日記(さぬきのくにだいにっき)」:江戸中期成立(1750年)
 → 香川県の歴史書
「泉州信田白狐伝(せんしゅうしのだびゃっこでん)」江戸中期成立(1757年)
 → 様々な晴明伝説の説話集
・「讃陽簪筆録(さんようしんぴつろく)」
 → 香川県の歴史書
・「西讃府志」:19世紀成立?
 → 西讃岐の地誌


演劇


・人形浄瑠璃・歌舞伎「蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」
 → 信太の森の白狐が安倍保名の妻となった伝説を主題とした演目
石見神楽「貴船(きふね)」
 → 能の演目「鉄輪(かなわ)」を基にした舞
  ⇒ 夫に捨てられた妻が鬼女となって呪い殺そうとするが、夫は晴明から身代わり人形を授かって難を逃れる


安倍晴明や陰陽道にまつわるのスポット

人文研究見聞録:安倍晴明とは?(まとめ)

安倍晴明や陰陽道にまつわる土地・場所のリストです(随時更新予定)。

茨城県


・猫島:茨城県筑西市猫島
・宮山ふるさとふれあい公園:茨城県筑西市宮山504

東京都


・五方山熊野神社:東京都葛飾区立石8-44-31

静岡県


・福王寺:静岡県磐田市城之崎4-2722-1
・晴明塚:静岡県掛川市大渕3901-2

愛知県

名古屋清明神社愛知県名古屋市千種区清明山1丁目6
・晴明神社:愛知県岡崎市唐沢町7

福井県


・天社土御門神道本庁:福井県大飯郡おおい町名田庄納田終129-9
・暦会館:福井県大飯郡おおい町名田庄納田終111-7
・晴明神社:福井県敦賀市相生町8
・木田神社(晴明神社):福井県福井市西木田2丁目6番27号

長野県


・安倍晴明の墓:長野県木曽郡木曽町

三重県


・海の博物館:三重県鳥羽市浦村町大吉1731-68
・賀茂神社:三重県鳥羽市松尾町
・九鬼神社:三重県尾鷲市九鬼町
・大馬神社:三重県熊野市井戸町1

奈良県


安倍文殊院奈良県桜井市阿部645
御門神社奈良県桜井市阿部

京都府


・梅林寺:京都府京都市下京区梅小路東中町1
・円光寺:京都府京都市左京区一乗寺小谷町13
・稲住神社:京都府京都市下京区梅小路石橋町
・鎌達稲荷:京都府京都市南区唐橋西寺町57
大将軍八神社京都府京都市上京区一条御前西入3西48
晴明神社京都府京都市上京区堀川通一条上ル806
伏見稲荷神社京都府京都市伏見区深草藪之内町68
一条戻橋京都府京都市上京区堀川下之町
安倍晴明墓所京都府京都市右京区嵯峨天龍寺角倉町
・橋姫神社:京都府宇治市宇治蓮華47番地

大阪府


阿倍王子神社大阪府大阪市阿倍野区阿倍野元町9-4
安倍晴明神社大阪府大阪市阿倍野区阿倍野元町5-16
・光林寺:大阪府交野市星田1丁目26-7
・星田神社:大阪府交野市星田2丁目5-14
・星田妙見宮:大阪府交野市星田9丁目60-1
磐船神社大阪府交野市私市9丁目19-1
・機物神社:大阪府交野市倉治1丁目1-7
・獅子窟寺:大阪府交野市私市(大字)2387
信太森葛葉稲荷神社大阪府和泉市葛の葉町1丁目11-47
聖神社大阪府和泉市王子町919

和歌山県


熊野那智大社和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山1

兵庫県


・広峰神社:兵庫県姫路市広嶺山52
・道満塚:兵庫県佐用郡佐用町大木谷
・晴明塚:兵庫県佐用郡佐用町大木谷

岡山県


・安倍神社:岡山県浅口市鴨方町小坂東字阿部山
・阿部山(安倍晴明の碑):岡山県浅口市鴨方町

香川県


冠纓神社香川県高松市香南町由佐1413

matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。